茅場町にある古いビルを使ったギャラリー兼本屋さんをご存知だろうか?
周りはオフィスばかりである。まさかこんな場所にあろうとは教えてもらわねば分かるまい。
ではなぜぼくは知っているのか。
はじめて知ったのはある講義でのことだった。藝術学舎というところの「いつか自分だけの本屋を持つのもいい」という講義。全5回で現役の本屋さんが講師となって話してくれるものだが、その中の1人が森岡書店の森岡さんだったのだ。
ボウズ頭の、かと言ってコワモテではない優しそうな男性が話してくれたのは一誠堂書店という老舗書店での職歴と森岡書店開業のエピソードだった。
詳しくは以下の記事に書いたのでここでは触れないがとにかく古ビル好きの森岡さんが惚れ込んだビルを本屋さんにしたことだけは書いておきたい。
だってそうだろう? そんなに好きな場所なら行ってみたくなるじゃないか。
そういうわけで行ってみることにした。
まとめ
時間のない方のためにまとめです。
- 品揃え:アート系。写真集がやや多いか。
- 雰囲気:上品。古ビルの趣が良い。
- 立地:茅場町駅から徒歩5分程度
Twitter:https://twitter.com/moriokashoten
看板などない
東京メトロ茅場町駅を降りて北に向かうと隅田川。これを川沿いに東に行くと古いビルがある。良い感じの古ビルだと聞いたからおそらくこのあたりだろうと思ったのだが、探せど探せど看板らしきものがない。あるのは飲食店の立て看板のみ。中に入って古いビル特融の雰囲気に気圧されるながらも本当にここかどうか分からない。サイトで確認すると店は3階らしい。ここまで来たのだからと恐る恐る3階まで上ってみる。もちろんエレベーターという文明の利器などこのビルには存在しないので階段で上がる…これかな、いや、まさか。緑のドアに小さく「MORIOKA SHOTEN」。知っていても見つけるのにひと苦労だ。
空間の魅力
中に入ってみると驚く。無音の空間にアンティーク好きの森岡さんが集めた古家具たちが整然と配置され独特の雰囲気を作り出している。真ん中から見ると左右対称の空間。インテリアの配置は曼荼羅から着想を得たらしい。なぜ曼荼羅なのかなど詳しいことはお店に行って聞いて頂くとして、レイアウトの説明だ。
まず、入って正面から左側が本屋さんで右側がギャラリーである。ギャラリー部分は作家の方の意向もあり大きくは写せないがなかなかの広さだ。このビル特融の若干黄色みがかった白い壁が作品を際立たせている。この右側の部分奥に長机。そこに「やさしいスキンヘッド」森岡さんだ。
本屋部分はというと、中央に3列のテーブルとガラスケース。左辺に棚3段の棚。小物ダンス。入口の辺に机にもできる棚とガラスケース。本屋さんとギャラリーを区切る場所に細長い台である。正面奥はすべて窓になっているのだが、この窓が良い。日の光が差し込んだこの空間は本当に素晴らしいのだ。
やさしいスキンヘッド
と、まあ建物としての魅力を紹介したが、この空間に外せないものがひとつある。何を隠そう。店主の森岡さんである。先に述べた「いつか自分だけの本屋を持つのもいい」講義のときからの知り合いであるが、本当に良い人なのである。講義のときから滲み出る人の好さ。スキンヘッドというとコワモテのお兄さんを想像してしまうものだが、この人ほどやさしいスキンヘッドは見たことがない。
茅場町という立地条件の悪さからするとすぐに閉店してもおかしくないような気がするがもう何年間やっているのだろうか。空間としての魅力や店主の力量はもちろんあるのだろうが、そういうところを超えた「森岡さんでなければきっとできなかった」とそう思わせる魅力が森岡さんにはあるのだ。
品揃え
そんな「やさしいスキンヘッド」森岡さんのいる森岡書店。品ぞろえはどうだろうか。見ていこう。
ギャラリーと本屋の区切りと中央奥の台
まず、ギャラリーと本屋の区切りから。ここにあるのはzineだ。『トーキョーアオヤマオモテサンドーウラ』や『IN TO THE WOODS』、『ニセアカシア 4』などである。そのまま店舗奥側の台を見ると、zineや古本が並べられたブックエンドと写真集とアクセサリ。柿崎真子『アオノニマス』や『月喰』、『LISTENING TO ARCHITECTURE』など。
店舗左辺から入口の辺にある本棚というか家具たち
店舗左辺にはzineと写真集だ。『本の島々』や緑川洋一『ヨーロッパの風景』、Renato Barrilli『ZAILI』、田中由紀子『R.I.P』、大竹昭子『NY1980』、『KOMATSU NORIYUKI YAMAGUCHI KAZUYA』、『BAUHAUS1919-1933』、『GAUDI』などである。
入口の辺にはあまり本はない。空間の雰囲気を壊さないように量はあまり置かないのだ。厳選された品揃えだともいえる。『HENRY MOORE』、『RASPO SO』など。ガラスケースの中は雑貨である。
中央のテーブル 真ん中と手前
入口まで戻ってきしまったが、目を店舗中央に移そう。
中央真ん中のテーブルは全て平置きで新刊もある。『mina perhonen?』、『紋黄蝶』、『作家の住まい』、雑誌『IMA』、『ON THE HORIZON』など。
一番手前の台にも新刊だ(古本もある)。
店主著の『写真集』や『BOOKS ON JAPAN1931-1972』、さらに、以下は店主著ではないが『SHAKER DESIGN』、『ワシントンハイツの子供たち』などである。最後に入口すぐ前の一番目立つ場所にあるガラスケースには『色からはじめるデザイン』、『茶の本』、『詩誌 ポエトロア』などである。特に中にある『詩誌 ポエトロア』はいかにも古書という感じがして、それが古道具の中にあるとこれがまた良いのだ。
何度も言うようだが本当に素晴らしい空間である
魅力があれば立地は関係ない
つい先日、古本ライター岡崎武志氏の『古本道入門』を読み終えた。古本屋や古本の世界を面白おかしく、でも丁寧に解説されていて面白かったのだが、こんなようなことが書いてあった。
「いい古本屋に立地はそれほど関係ない」
西荻窪の音羽館などを例に出してそう論じていたのだが、森岡書店に来てみると本当にそうなのだなと納得できる。茅場町駅は基本的にサラリーマンの街だ。だから、仕事で行くことはあっても観光や遊びで行くことはほとんど、いやまったくないと言っても過言ではない。ましてや川沿いにちょっと外れた道である。ただでさえ少ない人通りがもっと少なくなる。当然、ふつうの人間ならこんなところにお店を開こうなどとは思わないはずだ。
ところが、森岡さんはつくった。唯一無二のこの空間をつくったのだ。発端はビルの佇まいに惚れ込んだからということで、確かに建築としての雰囲気は堪らないものがあるが、それでもやはり森岡さんという人間がいなければ森岡書店は成り立たない。店主一人の店だから当たり前だが、それが本当に大事なことなんだと思う。
森岡書店は空間と人に魅力さえあれば立地条件なんて関係ないのだということを教えてくれる稀有な存在なのだ。