はじめて訪れようと思ったのは2年程前のことだ。そのときは途中まで行って結局たどり着けずに帰ってしまった。「いったいどこにあるのか?」と当時の僕は途方に暮れたものだ。それがつい最近、文明の利器を携えてようやく訪ねることができた。iPhone万歳。スティーブ・ジョブズ万歳である。本屋探訪記第59弾は「NADiff a/p/a/r/t(ナディッフアパート)」だ。
まとめ
時間のない方のためにまとめです。
- 品揃え:写真集中心に画集やエッセイなどアートに関係するものすべて。雑貨もあり。展示もあり。
- 雰囲気:ギャラリーに併設されている本屋が大きくなった感じ。
- 立地:恵比寿駅から徒歩6分。外れにあるので見つけにくい。
Tel: 03-3446-4977
Fax: 03-3446-4978
営業時間 12:00 - 20:00 月曜定休 [月曜が祝日の場合は翌日]
URL:http://www.nadiff.com/home.html
Twitter:https://twitter.com/NADiff_apart
ここはどこなのか!? 地図なしではたどり着けない本屋さん
JR山手線恵比寿駅を出て東に行く。すると、途中までは大通りなのだが次第に閑静な住宅街の中に入っていくことになる。静かである。ポツポツとオシャレなカフェやら美容院やらが散在しているが基本的には何もない。時刻はまだ18時だがこの頃は日が早い。不安になる気持ちを抑えつつiPhoneの地図を頼りに夜道をトボトボと歩いていく。目を疑った。さらに路地を曲がれというのだこの地図は。「本当にこんなところにあるのか? バグに騙されてるのではないか?」不穏な考えが頭をよぎる。しかし、手にしているのは天下のiPhone様である。しかも、iOS6にしたもののマップのバグを鑑みてグーグルマップのアプリを使っているのだ。いわば天下のアップル神とグーグル帝国のタッグである。まさか、間違えたりなどしないだろう。神に従うか弱い子羊のような気持ちでご託宣通りに道を歩いていくとガラス張りの店舗に着いた。神様! あなたを信じて良かった! ここが今回の目的地「NADiff a/p/a/r/t(ナディッフアパート)」だ。
本屋さんというよりアートの拠点
ドラクエで街を見つけたときのような感動を胸に湛えながら店内に入るとまず驚くことがある。目の前にあるのはベンチとフライヤー、テレビ、謎のアート作品「爆破ショー2」。謎? そう謎なのだ。動画付きで説明されているが紙コップに染料を入れて爆発させたものだそうだ。うーん、この意味の分からなさ。現代アートはやはり楽しい。
ベンチのある空間から右手に曲がるとこの現代アートと本屋さんが、まっすぐ奥に行くとエレベーターと階段がある。どうやら地下と上階はギャラリーになっているらしい。本屋さんの空間にも展示があることを考えると、本も売るけれどどちらかというとアートの拠点を目指しているように見える。
そういえば同じ系列のモダンも×10(バイテン)もギャラリーショップだ。考えてみればアートと本の親和性は当然のことながら高い。アート系ばかりを扱っている古本屋もあるほどだ。しかし、ここまで密接に「アート」と「本屋」が近付いている場所は他にないだろう。そういう意味でナデッィフは他のアート本屋から一線を画しているのだ。
レイアウト
と、まとめたところで、レイアウトや雰囲気を紹介していこう。
真っ白なまさに現代アートといった風情の店内で静かに聞こえるのはヒーリングミュージック。静かにゆっくり本を探して欲しいという気遣いだろう。
レイアウトだが、入り口を入ると先程も述べたように展示スペースがあり、ベンチに座れるようになっている。。ベンチの前にはテレビ。南川史門の作品が上映中だ。ここはその他、ポスターやフライヤーなども大量に置かれ、店の顔として「こういう店ですよ」という意思表示がしっかりされているスペースだ。
それと面白かったのが福袋が売られていたことだ。本屋で福袋を見るとは。ヴィレッジヴァンガード以来である。
奥は、階段とエレベーターで右手にいきなりアートの展示があり、その奥が販売スペース。先程の「爆破ショー2」の裏である。この裏に雑貨の販売スペースやレジカウンター、そして奥へと広がる本屋のスペースがある。
本屋のスペースは結構な広さとなっている。だいたい中学校の教室くらいだと言えば伝わるだろうか。向かって右側は平台が3つ。左側は背の高い本棚が1列。奥に広い長方形の店舗の壁沿いは本棚だが、奥は一面のガラス壁となっている。左奥には上下階に行ける螺旋階段が。ガラス壁の前は本も交えた展示スペースだ。
それでは、右側の壁棚から見ていこう。
右辺の壁棚 ガチャポン、写真、その他ジャンルごと
さて、意気込んで本棚を見ていこうとすると目の端に見慣れないシルエットが。明星のガチャポンだ。あの老舗雑誌のガチャポンである。少しだけ心を揺さぶられたが購入は控えた。まだまだ先は長いのだ。
本棚に目を移そう。
手前の棚4本が写真集コーナーだ。面陳を多用して魅せることを重視している。アート専門書店の腕の見せ所だろう。『笹岡哲子 写真集』や『この世界とわたしのどこか』図録、佐内正史『度九層』、ホンマタカシ、中山岩太、ノムラケイコ『Soul Blue』、鋤田正義『サウンドアンドビジョン』、川内倫子、林ナツミ『本日の浮遊』、そのほか写真論などが品揃えだ。新刊を中心に見ていて飽きない作りだった。特にスペースが多かったのは川内倫子だろう。まだまだ人気は衰えない…って当然か。
一度、柱を挟んで次の本棚である。ちなみに、柱にも棚が設えられており、ここも面陳が多く「WAKO WORKS OF ART」というフェアコーナーとなっている。1/27までの期間限定価格で1200円均一だそうだ。市原研太郎『ゲルハルト・リヒター/光と仮象の絵画』やマイク・ケリー、ジョーン・ジョナスなどなど。アート関係の本でこの値段は特価だろう。オススメのコーナーである。
奥にあるのは3本の本棚だ。ここは細かいジャンル分けが為されている。デザイン・建築とカルチャーと大きく分け、その上でカルチャーの小分けとして映像・演劇・ダンス、音楽、現代思想、カルチャーとなっているのだ。品揃えは以下の通り。
- デザイン・建築:『建築する身体』、『トラフの小さな都市計画』、『つなぐ建築』、『幻想都市風景』、『0円ハウス』、『離陸着陸』、『デザインの世紀』、『デザインするな』、『ポスターを盗んでください』、建築と日常『窓の観察』、『田中一光とデザインの前後左右』など。
- 映画・演劇・ダンス:『メディア芸術アーカイブス』、『肉体のアナーキズム』、土方巽『絶後の身体』、『アングラ演劇論』、『メディアアートの世界』など。
- 音楽:『アートと音楽』、『実験音楽』、ジョン・ケージ、音盤時代『音楽の本の本』、『ジャスト・キッズ』など。
- 現代思想:雑誌『思想地図』、『日本2.0』、ベンヤミン、『エッセンシャルマクルーハン』など。
- カルチャー:大杉栄、『リトルピープルの時代』、『夜露四苦 現代詩』、『おかんアート』、『まほちゃんの家』、『繋ぐ力』、雑誌『真夜中』、『花森安治集』、『iLove.cat』など。
ここの本棚は僕の大好物が多い棚だったりするのでオススメだ。写真もアートもデザインも最近興味のある分野ばかりなのである。特に『本日の浮遊』。欲しいなあ。高いけど。
奥のガラス壁の前 展示スペース
右辺の本棚はここまでで、奥のガラス壁にぶち当たる。ガラスの前に平台があるのだが、その上にあるのは森田浩彰特集だ。『日常の喜び』、『デュシャンは語る』などと共に東京都現代美術館のフライヤーが置かれている。さすがである。美術館の展覧会と絡めるとは。ギャラリーショップとして展開しているナディッフならではである。ちなみに、ここにはベンチがあって座れるようになっている。ベンチに座って今まで見てきた本棚で気になった本をゆっくり読むと良い。
真ん中の平台3つ
右辺の壁棚と左側の本棚1列を分けている平台は奥と手前に1つずつある。
まず、正面手前は写真集だ。正面に南川史門のA HAPPY NEW YEARポスターとTHE PLAYING CARD'Sで面陳を組み、右横には『HARBIN2009-2012』や『LIGHTING STORE』、『独行』、『光は未来に届く』、アラーキー『センチメンタルな空』、森山大道『モノクローム』、(サイン本の用意あり)、大竹伸朗、梅田哲也『はじめは動いていた』などでジンや図録もある。さらに、この平台は下に段がもう一段あり、『未来ちゃんの未来』やパトリック・ツァイ『モダンタイムス』などもあるので見逃さないようによくよく注意しなければならない。
奥の平台の右側には雑誌とジンとCD・DVDと展示だ。
雑誌は『d design travel』や『ARTFORUM』、『casa BRUTUS』、『union』、『here and there』などで、『日曜画家』や『仏像とエグルストン』、『外人さんは港が似合う』などなどのジンが混ざって置かれている。いやジンは意味不明な個人の情熱の迸りが感じられるのが良い。
平台終点のベンチには座らず、平台の左辺を奥から見るとそこはCDと展示。展示スペースは正直言って謎であった。EAM(Eが反対になっている0と書いてあったが、あれは何だったのだろう。僕の勉強不足であろうか。クエスチョン・マークが頭の中を駆け巡る。
CD・DVDはもちろん本と一緒に置かれている。矢沢明子や大谷能生、the coffee group 、テニスコーツ、草間彌生「わたし大好き」、マシュー・バーニー、羅針盤、ア・ホール・イン・ザ・ヘッドなどに合わせて「日常のための練習曲」、「ロシアピアニズム」といった本だ。ここの本とCD・DVDのバランスは秀逸だ。本があくまでCD・DVDを引き立たせるためにあるのだ。コーナーの主旨を踏まえつつ本屋であることも忘れないこのバランス感覚は素晴らしいものがあるだろう。
左側の1列の本棚 手前の平台側
平台を見るのをやめて振り返ると2メートルほどの本棚が手前に4本、奥に3本。手前側から見ていこう。
ここはアート/作品集というジャンルの様だ。ちょうど会田誠の「天才でごめんなさい」展覧会の時期だったのでここぞとばかりにフェアが展開されていた。テンガと組んでいたりするのが面白い。
そのほかchim↑pom『芸術実行犯』や『大竹伸朗全景』など大竹伸朗関係本にTシャツもあり、『「具体」ってなんだ?』、『石子順造的世界』、『咲くかな、変わるかな、輝くかな?』、『えあそびノート』、『大岩オスカール』、『白昼夢』、『空中そら』、奈良美智、横尾忠則などが、見やすいように並べられている
奥側はアート/批評と一番奥の本棚一本だけが文庫・新書のコーナーだ。こういうお手軽なコーナーがあるのは本当に助かる。
アート/批評には『ジパング』や『東海道新風景』、『フルクサスとは何か』、杉本博司、『芸術家起業論』、『アートのみかた』、『美術家たちの証言』、『アイ・ウェイウェイは語る』、シュールレアリスムの25時シリーズ、雑誌『ART it』など。
文庫・新書には、ちくま学芸文庫やちくま文庫、平凡社ライブラリー、さらにほかのアート・カルチャー関係本だ。ここで書いておきたいのは、石川直樹の隣に坂口恭平がいることだ。これは個人的に面白いことで、坂口恭平のトークイベントに行ったときの対談相手が石川直樹だったのだ。そこで彼に興味を持ち、だから、この並びを見て初めての著書を購入することにした。『全ての装備を智恵に置き換えること』。カッコ良過ぎるタイトルである。うん、満足。
左辺の壁棚と1列の本棚 洋書コーナー
手前と奥の本棚の間から左辺の壁棚とこの背の高い1列の本棚に閉じられた図書館的空間に入ることができるのだが、そこに行く前に回転式本棚があった。お土産コーナーなどにあるアレである。なんとなく懐かしい気分になりながら見るとA5版の雑誌コーナーだった。そりゃそうだ。移民分からない微妙なポストカードなどが置かれているわけがない。ここは恵比寿なのだ。
『美術手帖』、『TH』、『ur』、『Dratxt』、『広告批評』などで、足元にはポスターが置かれていた。
そのまま通路を通って今まで見ていた本棚の裏側に行くとそこはすべて洋書のコーナーである。Photogrphy A to ZやMonograph A to Zといったジャンル分けがされ、ところどころリズムを付けるかのように展覧会ポストカードやノートがあるが、他はすべて一面の洋書である。アートを学ぼうと思ったら国内だけではダメだろう。そんな当たり前のことにここでようやく気付くのだ。
爆破ショー2横・レジ前の雑貨コーナー
これで本の置かれている場所の紹介は終わった。だが、何か忘れていないか。そうだ。あの謎の展示「爆破ショー2」の横に隠れるように雑貨コーナーがあったではないか。
ということで、雑貨コーナーを見ていたら、ここがまた面白い。イチハラヒロコの「コトバアートカレンダー」や定番の「フロシキシキ」に大阪で初めて知った「マンガ皿」もあるさらに、そのすぐ側には楳図かずおの恐怖への招待があるあたりニクイねえ。そのほかコップなどのもあり、少ないながらも抑えた品揃えである。
本を中心にしたアートを学ぶ拠点
どうだっただろうか。正直、長文で途中で読むのにうんざりしたかもしれない。しかし、それも仕方ない。それだけ書く場所が多かったのだ。ちなみに、訪問時はもう夜が遅かったため展示は終了していたが奥のガラス壁の横に会った螺旋階段を上り下りするとギャッらい―になっていて生でアートを体感することができる。つまり、アートを体感し、学び、集まる場所がこのナディッフアパートなのだ。アート専門書店は他にもあるが、ここまでアートを総合的に体験できる場所はないのではないだろうか。
もしアートやデザインに興味がある人には是非とも行って欲しい。静かで過ごしやすい空間でアートを心ゆくまで満喫できるから。