西荻窪に面白い本屋がある。知人からその話を聞いたのはもう2か月前になるだろうか。話を聞いて次の休日にさっそく行ってみた。本屋探訪第55弾は「旅の本屋のまど」である(以下は2012年10月20日の記録だ)。
まとめ
時間の無い方のためにまとめを。
- 品揃え:その名の通り旅に関する本ばかり。ただし、旅行ガイドばかりというわけではない。店主が旅を感じるものである。一部古本や雑貨も有。
- 雰囲気:奥に広くゆっくり見て回れる。
- 立地:西荻窪北口から徒歩10分ほど。通り沿いにあるので見つけやすい。
TEL:03-5310-2627
URL:http://www.nomad-books.co.jp/
Twitter:https://twitter.com/nomad_books
Facebook:https://www.facebook.com/nomadbooks
場所
JR西荻窪北口を出る。東西に道が走っているのでこれを東に進む。西の騒がしい大通りを無視して静かな方に進むのだ。古本屋や居酒屋などがチラホラ少し寂しいくらいの間隔で佇んでいる。そんな中をてくてくと15分ほど歩いていくと左手に看板が見えた。「旅の本屋のまど」に到着である。
旅の本屋
中に入ると旅空間が広がる。分かりやすい飛行機や地図などの雑貨が多いわけではないが本の割合の方が多い。真ん中に平台が4つと壁は全て本棚となっている。奥にレジがありレジ前は雑貨とCD売り場だ。一番奥の平台は2段構成になっていて少し面白い。
しかし、そんなレイアウトはどうだっていい。そんなものは犬に食わせてしまえば良いのだ。とにかくここの特徴は「旅の本屋」であるということである。旅エッセイや旅行記、旅行案内、食の本、料理の本、何でもある。それもそのはずだ。このサイトによると「旅にまつわる本を手広く置いている」とのことなのだ。同じサイトから引用しよう。きっとどんな本屋かなんとなく分かってもらえるはずだ。ちなみに僕が行った時のBGMはケルト系の曲だった。さすがである。
「旅」に引っかかる本は基本置くようにしたうえで、そこから派生して、諸外国・地域の政治や文化、料理、映画、音楽など、「ここではない」場所への興味・関心を持てるような本を選んでいます。言ってしまえば何でもアリな訳でして、最終的な選択は結構感覚でやっています。なので、「どういう基準で選んでいるか?」と聞かれて
も答えられないんです(笑)。
店舗左辺 国内を中心に
旅の本屋の本棚はどうなっているのか。見ていこう。
左辺の本棚は国内を中心とした品ぞろえである。『るるぶ』などの案内書から旅行記、エッセイ、写真集、雑誌などなどとにかくたくさん置いてある。大きくジャンル分けがなされていたので以下に箇条書きで記そう。
- 最初に『散歩の達人』コーナー
- 国内紀行:『ヒグマ徒歩記』、『東京クラシック地図』
- 多摩・地元の本:『ひとり呑み』、『廃墟の歩き方』
- 国内ガイド・沖縄関連:『沖縄安宿ガイド』、『沖縄ウミンチュ』、『好きです! 小笠原』
- 『指さし会話帳』
- 海外紀行・エッセイ:『食いだおれ旅日記』、『巡礼コメディ旅日記』
- その他、著者別:蔵前仁一、前川健一、スイッチの本、池澤夏樹、沢木耕太郎
- 雑誌やシリーズ本:『旅行人』、『風の旅人』、『コヨーテ』、『トランジット』、『アジアブラックロード』など
- 最後に写真集と雑誌と『ヨガ手帳』
どうだろうか。日本国内、北は北海道から南は沖縄までの旅関連の本が盛りだくさんではないか。さらには、『旅行人』、『風の旅人』、『コヨーテ』、『トランジット』などなど国内に留まらない旅行誌まである。右辺の棚は海外の棚だが僕からするとこちらの方が親近感があって嬉しかった。特に東京についての本があったのが良かった。まだまだ堀りつくせない魅力がたくさんあるのだ東京には。さすがローカルが残る場所である(以下サイト参照)。
右辺は海外が中心
レジまでたどり着いたところでいったん入口まで戻ろう。そこから次に見るのは右辺の本棚だ。ここは海外ものである。海外ものというと急にいかがわしい響きになってしまうが海外の本ということだ。健全なる紳士淑女諸君はお間違いのなきよう。
さて、ここはまず入り口すぐ横のガラスに面した角に平台がありアジアのガイドブックが置かれている。中国とか台湾とかまあその辺りだ。続いてまさかの新着古本コーナーがある。というかよく見てみると新刊本と古本が分けられずに置かれているのだこの店は。管理が大変そうだが「本は人生のおやつです!!」と同じである。個人的にこの置き方は非常に好きなので嬉しい。なんというか新刊だと思って手に取った本が古本だとやけにテンションが上がるのである。いや貧乏性なだけかもしれないが。書名を挙げるとそんときは、『アジア・カレー大全』、『台湾まんぷくスクラップ』、『冒険王への100の戦術』、『スイス・アルプスひとり歩き術』、『リアル・キューバ音楽』などがあった。
それ以外は国名・地域名ごとにジャンル分けがされているので箇条書きをしていく。手前から奥の順番だ。
- 中国:『中国初恋』、『中国魅惑の雲南』
- 台湾・香港:『台湾事始め』、『台湾自転車気儘旅』
- 韓国・北朝鮮:『キムチの誘惑』、『日本のコリアをゆく』
- 東南アジア:『なるほど・ザ・台湾』、『微笑みの国タイ』
- アジア:『タイでロングステイ』、『バンコク燃ゆ』、『ハノイの憂鬱』、『マニラ通』、『バリ島カルチャー情報』、『秘密国チベット』
- 中近東:『イスラーム金融』、『チンギスハンの末裔たち』、『ドバイがクール』、『ツタンカーメンが微笑む』
- (途中で棚があり雑誌『SKETCH』のコーナーが)
- アフリカ:『タムタムアフリカ』、『キリマンジャロの石』、『あふりか浮浪』
- イギリス:『イングランド田園賛歌』、『映画を通して知るイギリス王室史』、『スコットランド「ケルト」紀行』、『アイルランドでダンスに夢中』
- フランス:『マリー・アントワネット』、『モナコ公国』、『ブルゴーニュの食卓』から
- ヨーロッパ:『ベネトンの世紀』、『イタリアの食卓』、『パリ犬』、『スイスの説明書』、『ドイツ手作り紀行』、『ベルギーグルメ物語』
- イタリア:『フィレンツェの台所から』、『シチリア・マフィア』、『イタリア「ケルト」紀行』
- ロシア:『モスクワ狂詩曲』、『KGBの世界都市ガイド』、『ポーランドの建築・デザイン史』、『ヴァイキングの航海』、『物語スウェーデン史』
- 中南米:『グリーンネイバーフッド』、『ビート・ジェネレーション』、『マイケル・ジャクソン』、『ジョン・レノン アメリカでの日々』、『インディアンは笑う』
- オセアニア:『メキシコホテル』、『キューバでアミーゴ』、『オーストラリア的生活』、『夢と住むハワイ島』
盛りだくさんである。何でもござれである。どこにでも行って下されである。海外旅行なぞ大学の卒業旅行でグァムに行った程度の引きこもり日本人である僕からすれば恐るべきタビ充(旅人充足。リア充から思いつきで作り出した造語。思いつきなのであまりピンとこないw)棚である。恐ろしすぎて何冊か買いたくなってしまった棚である。頭の中でなら僕だって立派な旅充になれるのである。やっぱり読書は偉大なのだ。
店舗右辺の突当り 雑貨・CDコーナー
そのまま右辺に沿って進んでいくと突き当たりの角に雑貨とCDが並べられている。東野健一氏特製ポストカードや地雷除去ステッカー、カンガ、チェブラーシカ、世界ウルルン滞在記などのDVD。当然のように個々の異国情緒あふれる作りだ。先に挙げたサイトにも書いてあるが「棚づくりにこだわらない」と言った通りだ。別れの度に号泣しあうような素晴らしき演出情緒あふれるあの番組のDVDがあるだなんて。きっと誰かお客さんに刺さるだろうとの見込みなのだろう。そのポップさものまどの魅力の一つと言える。
テーブル平台 本と雑貨 妄想マーチャンダイジング
満を持して真ん中にあるテーブルや平台を見ていく。店舗に入って一番初めに目にする場所である。どんなオススメ本や雑貨が置かれているだろう。楽しみである。
一番手前の平台から見ていく。ここには雑誌『考える人』、『戦場の都市伝説』、『旅を生きる人びと』、『世界の市場』、『フリートーキョー』、『世界をめぐるかわいい紙もの』、『ヨーロッパ各国気質』などポップな本が多い。なるほど。いきなり『アジアブラックロード』や『コヨーテ』に行く人は少ない。また、廃墟ツアー目当ての人など目的買いでもない。旅や散歩、オシャレな外国のものが好きな人をここで捕まえようということだろう。そんなに驚くほどのことではないが考えてみると素晴らしいものである。外さないって感じだ。
2つ目の平台は、もう少しディープになる。スッカラ、雑誌『トランジット』の「美しきチベット」特集、雑誌『コヨーテ』の「今、野坂昭如」特集、さらにアジアのよく分からない雑誌に、『島へ』、『ジー・ダイアリー』などなどそろそろ僕も知らないものが多くなってきた。なるほど。ひとつめで捕まえたお客を二つ目の平台でがっちりと旅のディープな世界に引きずり込もうという戦略である。この落差にはしびれるぜ。
3つ目の平台まで行くともう四半ですらない本が出てくる。『酒とつまみ』と『野宿野郎』だ。もうタイトルからして堪らないものがある。特に『野宿野郎』ってどんなzineだろうか。僕の中に隠れていた堕落性が顔を出してしまう。いかんいかん。これ以上ダメ人間になってどうする。気を取り直して他の本の紹介だ。他には『アマゾン漂流日記』や『バイクの旅』、『雪男は向こうからやって来た』、『フラットハウスライフ』、『セルフビルド』、岡本太郎、中原淳一、ダライ・ラマ、インディアン系の本、ハワイ本、グァム本、『リトケイ』など一風変わった本がある。なるほど。今までとは違う切り口で旅を浮かび上がらせようという魂胆か。さすがである。恐れ入ったのである。畏まり畏まり申すのである(なんのこっちゃ)。
4つ目の2段平台になると打って変わって雑貨が多くなる。絵本のダーシェンカやルドルフに、パウル・クレー・カードセットやルドルフマグカップ。東京ウォーキングコース、社会科見学を100倍楽しむ本、中古地図100円から、ワケありな紛争など軽めのネタ本にアジアの雑誌とジー・ダイアリーが大量に。さらにレジ側の面にはミシマ社Tシャツとカンボジア語Tシャツ、旅行人オリジナル便箋がある。ここまで来ると訳が分からない。きっとあれか。旅の果てに見出すものはカオスなのか。そうなのか。何とか言ってくれよ、なあ!
「のまど」を語るなら四の五の言わずにここに来い!
さてさて、これですべての棚と平台を見たことになる。途中、本と雑貨の位置関係を妄想して大変失礼なことをのたまった気がするがそれも本屋そのものに対する愛が迸ったからでなのである。ご愛嬌と言うことで許して頂ければ幸いだ。
何はともあれ「旅の本屋のまど」は「ノマド」の本来の意味である「定住しない遊牧民」を思い起こさせる旅感にあふれた本屋だった。駅から遠いのが玉にキズだが西荻窪にお越しの際にはぜひお寄りいただきたい。そしてしたり顔をしてノマド論を語っていたそれまでの自分を恥じ入り畏まって畏まって地の底に沈んだ気持ちを買い物という一級品のストレス解消法で盛り上げてもらいたい。
つまるところは「行って買え」と。シンプルに言うとそういうことだ。
2017年6月から始めた本屋紹介番組「BOOKSHOP LOVER TV」の第一回目でも取り上げています!