今日の本屋探訪記第25弾は渋谷文化村の新刊書店「ナディッフモダン」(2011.6の記録)。
まとめ
まず、時間の無い方のために軽いまとめを。
- 品揃え:新刊は少なくアートに特化した品揃え。しかも現代や近代のアートが多かったように思う。
- 雰囲気:上品。文化村の客層を考慮してのことだろう。
- 立地:渋谷駅から徒歩10分。
- 周りに遊べるところも多いし悪くない。
TEL. 03-3477-9134 FAX. 03-3477-9138
OPEN
日~木 10:00 - 20:00
金・土 10:00 - 21:00
URL:http://www.nadiff.com/shopinfo/shoplist/modern.html
Twitter:https://twitter.com/NADiff_modern
東急渋谷文化村のミュージアムショップ兼本屋
この前の6/11,12日で東京に行ったので、寄ってきた。
渋谷駅ハチ公口を出て109を左に見ながら文化村通りを真っ直ぐ行くと東急百貨店が見える。東急の中に入って真っ直ぐ行くと文化村だ。渋谷文化村とは展覧スペースや音楽ホール、シアターまである複合文化施設で僕が行った時は1階の展示スペースで「弦屋光溪 役者絵木版画展」を。地下のミュージアムで「花の画家 ルドゥーテ 「美花選」展」(以下、美花選)をやっていた。目的の「ナディッフモダン」は、ここの地下1階ミュージアムショップのすぐ近くのカフェの隣にある。
場所からも分かるように「ナディッフモダン」はミュージアムショップでもある。文化村のミュージアムショップは1階にもあるが、それとは別に、「ナディッフモダン」はあくまで本屋なので、本を中心の取り扱いとなっている。
『美花選』展フェア
店舗について見て行こう。すると、まず目に付くのが、外の面陳台とワゴンで展開されている「美花選」展フェアである。
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『大人のための美しい塗り絵』や『花の西洋史』、王妃マリーアントワネットについての本、知の再発見双書で『ヴェルサイユ宮殿の歴史』、『ボタニカルアート』などの本と共に、Tシャツ、ハンドクリーム、絵、ソープ、クリアファイル、ポストカードなどの関連雑貨も置かれており、僕はルドゥーテという人のことは全く知らないのだけれど何となくいつの時代の人か、どういった人が好む人なのかが分かるような品揃えとなっていた。
店内レイアウト
さて、ガラス張りの店内に入ると、フローリング張りでオシャレな雰囲気。さすがミュージアムショップである。
店舗の形は、横に長い台形で(左側が上辺(一番短い辺)、右側が下辺(上辺の対辺)とする)で、入ってすぐ左手に二階への階段が、右前の頂点にカウンターと作業スペースがある作りとなっている。広さは8畳ほどだ。
二階がロフトのようになっているので天井が高く、横のスペースは狭くとも圧迫感を感じることはない。一階から左回りに見ていこう。
文房具コーナー 日本における紙や本の文化
入り口から見て左側は台形の上辺に向かうのでどんどん通路が狭くなっている。通路の左手には主に文房具が置かれている。品揃えは、ポストカードや、鉛筆、キーホルダー、ペン、便箋、ハンコ、マスキングテープ、やノートだ。ノートのブランドはD-BROS、Dressco、モレスキン、RHODIA、さらにはナディッフモダンのオリジナルもあった。
ここで注目したいのが美篶堂のシリーズだ。美篶堂は都内で製本ワークショップを行っている製本をメインとした雑貨屋さんで、『虹色ブロックメモ』や『上製ノート』を売っている。「ナディッフモダン」では「上製ノート」や「虹色ブロックメモ」が置かれていたが、並べて『日本の素朴絵』や『北斎漫画』も置かれており、日本における紙や本の文化というくくりで棚作りが行われていたことがわかる。「上製ノート」は、今回は買わなかったが、いつか買ってみたい。
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ここで文房具が置いてある台が終わり、突き当り(台形の上辺)まで少し間があるのだが、視線を上に上げてみるとパリの写真が額縁付きで飾られていた。売り物ではないだろうが、こういうちょっとした仕掛けは楽しい。写真を見終わると突き当りだ。
奥にひっそりあるものは
突き当りにはガラスケースがあり、覗いてみると『アリスが落ちた穴の中』の特集がされていた。全く知らなかったが、どうやら映画の宣伝らしい。宣伝だったらもっと目立つ場所でやれば良いの思うのだが奥の方にひっそりとあるというのもそれはそれで密やかな感じがして良いのかと思った。
ジャンル分けされた壁棚
突き当りから体を右にすると本棚になる。というか入り口の正面の辺は全て本棚なのだが、この本棚を見ていくと、しばらくは演劇や美術、現代美術、デザイン、建築といった大まかなジャンル分けが棚に挿してあるインデックスでなされている。
それぞれ台形の上辺から見て順番に見ていくと以下の様になる。
- 演劇…棚一つ分。『劇場について』『寺山修司 全シナリオ』、雑誌『夜想』など。
- 美術…これは棚二つ分で、インデックスはないが一つずつ『西洋美術』と『日本美術』となっている。
- 西洋美術…台形の上辺から見て手前の棚。『ムンク伝』や『恋するフェルメール』、『ジャコメッティ手帖』など画家に迫ったものから、『グリーンバーグ批評選集』や『西洋美術解読事典』、『美学入門』など芸術論的なものまで。
- 日本美術…台形の上辺から見て奥の棚。『日本美術史』や『カムイ伝講義』、『高島野十老 過激な隠遁』(欲しい!)、『藤田嗣治 作品をひらく』など。
- 現代美術…棚一つ分。『メディアアートの世界』や『アートマネジメント』、『美術カタログ論』などアートについての本や展覧会の本が多い。
- デザイン…棚一つ分。『ブランドは根性』、『デザインの力』、『世界のグラフィックデザインシリーズ』20冊くらいなど、ブランドやプロダクトデザインの本が多い。
- 建築…棚一つ分。『近代建築史』や安藤忠雄の本、ル・コルビュジエの本、中沢新一の『アースダイバー』など。
- 音楽…棚一つ分。『武満徹の音楽』や『エリックサティ覚え書』、『モダニズム変奏曲』などでバッハやモーツァルトなどというよりは現代音楽寄りの構成。
ジャンル分けの棚が終わると知らない絵が面陳で棚に飾られており、そこが過ぎると入り口前に戻ってきたことになる。
『倉俣史郎』の特集
入り口正面には小さいがガラスケース一つがあり、倉俣史郎の特集が組まれていた。中には『倉俣史郎とエットレ・ソットサス』という美術書と家の形をした金槌やスパイスセット、スプーンやフォークが倉俣史郎のコメント付きで売られていた。
『美花選』展の特集2
入り口正面の壁では、現在の展示品「美花選」の特集だ。ここでは、外のように雑貨はあまり並べられておらず、複製絵画や画集などが置かれている。一番目立つ場所だが、限られた販売スペースをそこまで使えないということだろう。
「美花選」の隣からは、今までのジャンル分けされた棚とは違い、本だけではなくノートやマグカップが置かれていたり、それまでの3段に固定されていた棚とは違い、横板の位置を変えていたりと、見ていて飽きない作りとなっている。
映画の棚
内容はというと、映画やアニメなど映像関連の本(『キューブリック全書』や『日本のアニメーションを築いた人々』、『ウディアレンの仕事術』など)が上2段に、下の段では『paper blanks』のノートが、さらにその下では文化村の上階で上映中の「ジュリエットからの手紙」のポスターがあり、それに絡めて『フィルムメーカーズ』や『イタリアものしり紀行』、『ヨーロッパものしり紀行』が並べられている。
焚書ワールドオブワンダーって良いのかな
その隣の棚では、写真関係の本(『メディア写真論』や『考える皮膚』など)が中心の棚に、上段下段は画集が面陳と平積みで、さらに隣の棚には、文学や出版関係が少し(アドルノの本や『本の美術誌』など)、上段ぶち抜きで『焚書ワールドオブワンダー』の面陳となぜかマグカップ(最近、行く書店には結構置いてあるこの『焚書ワールドオブワンダー』。業界では有名な本だったりするのだろうか。僕は絵は凄いけどそこまで好きじゃなかったので不思議)。
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その隣の棚は、上段に『不完全なレンズ』という本とそれに関わるモノクロのポスターやポストカード、クリアファイル。下段に岡本太郎特集。
その他 舞踊、本の本、絵本、アート
隣は、中段に舞踊関係の本(『バレエダンス事典』や土方巽の本(欲しい!)、『踊る身体のディスクール』など)。上段にガケ書房で衝動買いした『アライバル』と『TREES』という絵本が面陳で、それと『西洋製本史』という大判本(なんと6,600円!!欲しいけど高い…)が並べられており、下段は本に関する本で、装丁や書店についての本、大判本の『ブックデザイン』、ムック『松岡正剛の書棚』と谷川俊太郎などの詩集。
その隣は、絵本とムーミンコミックスで、他にアートに関する文庫や新書(平凡社ライブラリーが多い)が一段分。上段にフレデリック・バック展のフライヤーがあり、下段がコーヒー関係の本が置いてあった。
雑誌と限定本
ここからは棚が三つあるが、全て下段は雑誌(洋雑誌含む)がそれ用の什器に面陳で挿さっており、上段では『ジャン・ティンゲリー 本格フランス装限定500部』や大竹伸朗の本とトートバッグ、洋書の美術書が目立つように面陳を駆使して置かれていた。ちなみに、ここに至るまでに膝くらいの高さの平積み台が続いており、平積みでそれぞれの棚に応じた本が積まれていることも忘れずに記しておく。
これで、カウンターに至り、1階の本棚は終わるわけだが、「ナディッフモダン」では本のセレクトもそうだが棚の作りがアトランダムで面白かった。
目が忙しい本棚
厳選された本を「上段ぶち抜き」であったり、「下段にちょこっと」であったり、アトランダムな棚を使うことで全ての段にお客さんの目が行き届くような仕掛けをしているのだ。実際、じっくり「ナディッフモダン」の本棚を見ようと思ったら、視線が上下左右に動いて忙しいと思う (ちなみに僕はこのメモを書くのに本棚をずっと見るのは目が忙しかった)。だが、忙しく目を動かして見る棚には何か必ず発見があるはずだ。
僕の場合は、『西洋製本史』という本があること『フランス装限定版』が存在していることを知れたことだ。本好きは勿論だけど、美術やアート系が好きな人にはきっと『ナディッフモダン』の棚はたまらないものがあると思う。
CD・DVDコーナー
さて、カウンター以降を見ていこう。カウンター横には「Sharbet Series」などの香水が小さいテーブルの上に置かれ、その奥が店員の作業スペース、そして、突き当り(台形の下辺)と折り返して入り口側の辺にCDとDVDコーナーが棚3つ分 (内容はクラシックがほとんどだったとは思うが、全く知らないので、詳しくは行って見てください)。
デザイン雑貨コーナー
CD・DVDコーナーが終わると、ガラス張りの壁沿いに長テーブルがある。上には「ひびのこづえ」フェアが行われており、ハンカチやかご、作品集、ガラス壁にはトートバッグや傘などが飾られていた。ハンカチは表地と裏地で色が違っていて生地も触っていて気持ち良く、プレゼントにも使えそうだし、これは知ることができて良かった。
足元がごちゃごちゃしているなと思ったら、なんと長テーブルの下にも販売スペースがあり、ここでは横尾忠則についての本やポストカード、「フロシキシキ」の雑貨、「clap」のデジカメ、パラパラブックスなどの雑貨が置かれていた。『フロシキシキ』はペタペタしたビニールのような素材で、そのペタペタを利用してボタンなど留め具なしの小物入れや筆箱を扱っていて、『こんなものもあるんだ』と驚いた。色々、考えるんだなー。
長テーブルが終わり、振り返ると、そこにもテーブルが置かれており、上では雑貨が売られている。内容は「さくらさく」のコップ(コップを置いた時の水の跡が桜になる!)や「ホテルバタフライ」のコップ、花のコサージュ、「hope forever blossoming」、万華鏡、しおり、花のペンなどだ。
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展覧会からの導線
カウンター周りは基本的には雑貨がメインで、本棚も雑誌がほとんどであることを考えると、展覧会帰りになんとなく入った人のついで買いを触発する狙いがあると思われる。雑誌が入り口すぐではなくカウンター横に置かれていることからそれがわかる。「あ、そういえばあの雑誌買おうと思っていたんだ」を触発しようというわけだ。
入り口に戻ると長テーブル横の隣では、また「美花選」のコーナーがある。今度は、ポストカードやボタニカルアートシートがメインだ。これは、店から出て行く人が気づくように置かれたものだろう。「展覧会帰りなんだから、せっかくだし」を触発しようとしている。
ロフトのような2階
そのまま入り口を通り過ぎて、すぐ横の階段を上り、2階に行く。2階はロフトのようになっており、本棚と壁しかない(お客さんもいなかった)。
『美花選』展の特集3
まず、目に付いたのが、また「美花選」だ。ここでは壁に絵が飾られており一つ何万円かで売られている。ちょこちょこ入れてくるあたり、やはりミュージアムショップなのだろう。
奥深いアートの世界
『美花選』を通り過ぎると、奥は全て本棚で、ほとんどが洋書で占められている。なので、内容は分からなかったが(ロートレックの画集があってそれは欲しかった)、いくつかあった日本の本では、横尾美美の画集や『美術手帖』のバックナンバー、土門拳の本、『横尾忠則 全ポスター』が気になった。
二階の突き当たり、ちょうどカウンターの真上あたりには、『薔薇刑 完全復刻版』と『薔薇刑』のポストカードが置かれていた(『薔薇刑』って何のことか分からなかったけど三島由紀夫の裸体写真集のことだったのか! そんなものがあったことに驚き。奥が深いぜ、アートの世界)。
これで、『ナディッフモダン』の店内は全て見て回ったことになる。
立地条件を最大限利用する
全部見て思ったことは、僕はミュージアムショップを兼ねている本屋はここ以外では知らないし、展覧会もそこまで行かないから分からないけど、このように『アート』に特化したお店も面白いということだ。アート専門書店ではなく、あくまでもミュージアムショップなので本以外も積極的に置き、しかもミュージアムの展示にこだわらない商品も多い。
駅前ではないが、立地条件を最大限利用するこういう書店の在り方も面白い。「ナディッフモダン」は渋谷文化村に来て、なんとなくアートな気分に浸りたい人には最高の書店だと思った。