偶然見つけた、東京芸術学舎での全5回の講義「いつか自分だけの本屋を持つのもいい」。元BRUTUS副編集長であり、現在はフリーランス編集者/美術ジャーナリストである鈴木芳雄さんを司会として毎回続きますワタクシの好みど真ん中の講義でございます。第三回の森岡書店様に続きます第四回は元SPBSの店長であり、現在はトラックに本棚を詰め込んで本を売りに行く「BOOK TRUCK」という活動をしている三田修平さんの講義でございました。
- 芸術学舎 http://gakusha.jp/
- BOOK TRUCK http://www.facebook.com/Booktruck
- SHIBUYA PUBLISHING BOOKSELLERS(SPBS) http://www.shibuyabooks.net/
- TSUTAYA TOKYO ROPPONGI http://store.tsutaya.co.jp/storelocator/detail/2000.html
三田修平さんのこれまで
先に元SPBS店長と書きましたが、その前はTSUTAYA TOKYO ROPPONGIにいたようです。大学時代に本屋をやりたいと思ってアルバイトをし出したのがここであると。
そこで幅さんと知り合い、SPBSの店長をすることに(当時のお話も若干ございましたがここでは端折ります)なり、さらに、そこから働いているうちに場所に囚われない本屋をやりたくなって始めたのが今のBOOK TRUCKであるとのこと。
「場所に囚われない本屋」
立地条件が運命を大きく左右する小売において場所をフリーにするというのはひとつの選択肢かもしれません。ネット販売にしないというところが面白いところだと存じます。
BOOK TRUCKを見てみよう!
自己紹介も終わったところでなんとBOOK TRUCKを実際に見てみることになりました。そういえば入口の横に車が止まっていると思ったのですよ!
芸術学舎の入口を出て横に行くとレトロな青いバンがそこにありました。思ったよりもゴツくなく、カワイイ車です(シェビーバンというシボレーの車だそうです)。
車も棚も自前とのこと。古い車なので整備費や燃費が意外とかかったり運転が難しかったりと小話をいろいろ聞けました。本棚をホームセンターで手作りしたというのは驚きでしたね。
場所については依頼を受けて赴くのがほとんどの様ですね。知人の紹介やフェイスブックページに連絡が来る場合も。
品揃えは古本とリトルプレスのようです。取次の口座を持っていないので新刊は取り扱っていないのです。これは後ほどお話していましたが、本の流通というものは特殊なのですよね。しかも、買取を行っていない。ではどこから仕入れているかというと、なんと某新古書店かららしいのです。良い本は少なくなってきているという話を聞いていたのですが、意外とそうでもないのでしょうか。
多いのは絵本でございます。イベントに出向くと子ども連れがいることが多く、となると絵本が活躍することも必然的に増えるのだそうです。また、本好きに向けて販売するというわけでもないので(あくまでイベント出店者の一人という位置づけでしょうから)、読みやすい絵本は好評なのだそうです。
シェビーバン http://www.gooworld.jp/usedcar/CHEVROLET__CHEVROLET_CHEVYVAN/index.html
本屋を始めるには
さて、ここからが本題でございます。
本屋を始めるにあたって必要なこと。手続。経費。業態。などなどについてお話し下さいました。知っていることもありましたがこうやって体系だてて話して頂けると非常に助かります。
仕入について
「さーて本屋をやろう。売るぞ売るぞー」と息巻いて売ろうにも売る物がなければ始まらないのでございます。というわけで、まずは仕入についてのお話でございます。本屋をやる場合の仕入方は大きく分けて以下の3つに分かれる様です。
- 大手取次
- 直取引
- 二次卸
- セドリ
- 買取
- 古書市
1~3は新刊を扱う場合。4~6は古本を扱う場合の仕入先でございます。
1.大手取次について
まずは、「1.大手取次」でございます。ここは何よりもまず取引を始めるまでのハードルが高いことが特徴でございます。取引を始めるためには口座が必要なのですが条件が二つあります。
- 月で約200万以上の売上
- 保証金として2,3カ月分の売上金額を事前に振り込むこと
資本が潤沢にある方向けですね。いやー羨ましい。
ですが、一度開いてしまえば、取次が本を配本してくれます。しかもどの出版社の本もある程度ですが安定的に手に入れることができます。素晴らしい! とはいえ、取次ではパターンはい本というシステムを取っているため、大手書店でもない限り、売れ筋の最新刊が発売当日に入ることは少なく、そういう意味でも難しい選択であります。
ちなみに仕入れるときの金額(掛け率)は販売金額の7割から8割程度だそうです。つまり、粗利は2割~3割。ここから人件費等を引かなければいけません。そりゃ「本屋は儲からない」と言われるわけです。
2.直取引
大手取次の口座を開くのが難しく、それでも新刊を扱いたい場合の選択肢のうちの一つです。出版社と直に取引をするという方法ですね。これにも2点のリスクがございます。
- 事務作業が増える
- 出版社が取り合わない可能性がある
その上、掛け率は大手取次との場合とあまり変わらないようです。数多ある出版社から厳選して取り揃えたいセレクト型の本屋さんを目指すのなら良いのかもしれませんが、こちらもこちらで大変そうです。
3.二次卸
これは不勉強にして存じ上げませんでしたが、取次から仕入れてさらに本屋さんに卸すところのようです。「日本雑誌」や「日本出版貿易」などを例として挙げられていました。また、洋書の専門卸などもある様で返品可能の「タッシェン」や「ファイドン」、「DIP」、返品不可の「嶋田洋書」、「UPS」、「ユトレヒト」を挙げておられました。
特徴としては、大手取次と違い取引しやすいところで、保証金が不要であったりなど最初のハードルが低いのが小さい本屋さんを開きたいならオススメできるかもです。その分、掛け率など条件が厳しいところもあるようですが、そこはそれ。1兆1反というものでしょう。
4.セドリ
ここからは古本の仕入方となります。セドリは、既存の古本屋で売られている古本を買ってきて売るというやり方で、古書業界にはセドリ師という呼び名もあったとか(せどり男爵数奇譚に詳しい)。お宝と出会えたときは本当に嬉しいものですが労力が大きいです。なにせ見つけるのも大変ですが、どの古書に価値があるかを知っていなければいけないのですから。今はアマゾンのマーケットプレイスを利用している方が多い(主に某新古書店に多い)ですが、やはり対面での売れ筋を知っているかどうかは大きな分かれ目となるでしょう。
5.買取
古本仕入の最もオーソドックスな方法ですね。某新古書店でも行われている方法です。これは大きく二つに分けられます。「持ち込み」と「出張買取」です。
「持ち込み」はお客さんがお店に持って来なければいけないため出張買い取りと比べるとハードルが高いように思えます。お客さんにとって店の特徴が分かりやすいもので、かつ売りやすい雰囲気でないと成立しにくいのではないでしょうか。昔ながらの古書店に本を売りに行くのは心理的なハードルが高いように思うのです。
「出張買取」はこちらから出向くケースです。大量の買取が予想されますが、一人で開店している場合、店番がいなくなるため事実上不可能になってしまいます。知人友人に手伝ってくれる方がいる場合、大きな戦力となってくれる方法でしょう。
6.古書市
古書組合に所属して市場に出ることを言います。昔ながらの古書店はほぼ加盟しているでしょう。三田さんは加盟していないので詳しいことは分かりませんが、5回目の講義では古書日月堂の方が来られるのでそのときに説明して下さりそうです。
本屋を運営する
そうやって仕入れて「さて本屋を始めよう」と思うでしょうが、まだ考えることがございます。そう「どんな本屋にするか」です。これは考えるのが最も楽しく、かつ、最も難しいものです。三田さんは大きく分けて3つの業態があると仰っていました。
- 本の販売のみ
- 本と雑貨の販売
- 本と別事業を組み合わせる
1番がもっとも難易度の高いやり方です。先にも上げたように本の粗利は2割程度しかございません。聞くところによると大手の書店の中で利益を挙げているところはほとんどないとか。出版業界が全体的にシュリンクしていく中で本の販売のみでやっていくことは相当に覚悟のいることなのかもしれません。
2番と3番は同程度の難易度で、雑貨にしても別事業の飲食にしてもイベントにしても本より利益率が高いことが難易度を下げる要因となっています。
これに加えて、新刊のみか古本のみか新刊も古本も扱うのか。という選択肢もございますが、ここのところ開店している本屋さんでは新刊も古本も扱うところが多いようです。ただ、利益と品揃えとの兼ね合いであり、そこのところのバランスは難しいようです。
本屋をマーチャンダイジング的視点で見る
実際に本屋を始めたとしましょう。目的はいつだってどうやって売上を上げるかです。もちろん他の目的もありうるでしょうが売上がなければ継続することができないのですから「売上を上げること」は最優先すべき事項です。
売上を上げるためにはどうしたら良いか。三田さんはマーチャンダイジング的視点から4つの要素に分けました。
- 客数
- 購入率
- 客単価
- 粗利率
1.客数
ユニーク来店者数・来店頻度で構成されます。
ユニーク来店者数は、認知度によって左右されます。立地やイベントやSNSによるPRなどが効果を表すでしょう。
来店頻度は、如何にリピーターを増やすかということですね。ポイントカードやフェア、品揃えの回転数を増やすこと、イベント、店頭買取を促すことなどが主な施策です。
2.購入率
買う空気を如何に醸成するかにかかります。空間や商品の見せ方を工夫することが施策となります。コンセプトを特徴的にしてみたり、POPやフェアを行ってみたり。難しいところですがやりがいがありそうです。
3.客単価
商品単価・購買点数によって構成されます。
商品単価はそのまま高単価の商材を扱えばOKです。購買点数については1番2番と重なりますね。見せ方を工夫することです、本より買い易い雑貨や食品を扱うことも選択肢に入ります。
4.粗利率
稿粗利の商材を扱えば上昇が見込めます。つまり、新刊以外の商品を扱うことですね。古本もそうですが雑貨や飲食、イベントを行うことです。最近はイベントを行う本屋さんが多いように感じますね。
売れるお店≠面白いお店
さて、これでほぼ講義は終わりなのですが、面白かったのが「売れるお店≠面白いお店」という三田さんの言葉です。
これはある本屋好きの会で大手取次の方が仰っていたこととぼくにはちょうど重なって聞こえました。
「一時期のセレクト型書店の流れは廃れてしまい今では僅かしか残っていない。果たしてセレクト型書店を読者は望んでいるのか」。
確かに品揃えは商品の並びで魅せることは刺激的で画期的な試みではあります。ですが、見ていて面白いけど買いたいと思うかは別問題なのです。面白いお店だからと言ってそれが売れるお店であるとは限らない。独り善がりにならずにどうやってお客さんと自分の求める本屋さんを実現するか。これは難しいテーマですが考えて、そして、実践していきたいテーマであります。
次回は古書日月堂の店主でございます。果たしてどんなお話が聞けるのか。楽しみで仕方のない土曜日の夜なのでございました。