都営三田線「白山」駅から徒歩8分。大通り沿いでも商店街でもない住宅街の中。すぐ近くの銭湯が目印だ。富士見湯。下町である。富士見湯を超えてすぐ先に突如現れたできたての緑色の扉。そこが双子のライオン堂書店だ(以下は2013年8月17日の記録である)。
まとめ
時間のない方のためにまとめです。
- 品揃え:作家や批評家などによる選書と自費出版物。文学や思想系はかなり強い。
- 雰囲気:家みたいな雰囲気。
- 立地:白山駅から徒歩10分程度
営業時間:火曜日・土曜日:13:00~21:00
URL:http://liondo.jp/
Twitter:https://twitter.com/lionbookstore
いつかは自分だけの本屋を持つのもいい
そもそもなぜこんな場所にある本屋をぼくは知っているのか。話は一年前に遡る。
青山一丁目駅にある藝術学舎という教育法人をご存知だろうか。いわゆる社会人大学なのだが、アート系の講義が多い中で本屋好きのぼくのためにあるような講義を見つけた。それがこの「いつかは自分だけの本屋を持つのもいい」である。
内容は雑誌BRUTUSの元副編集長。フクヘンこと鈴木芳雄さんを司会に現役の本屋さん古本屋さんに話を聞いていくというものだ(当時の様子は以下を参照されたい)。
その中でネット本屋を何年もやりそろそろリアルの店舗を持ちたいという同世代の彼がいた。双子のライオン堂店主との出会いである。
そのときは何年もあとになるのだろうと思っていたのだが3ヶ月間の講義も終わり半年ほど経ったときである。彼から「開店した」と連絡が入った。驚きである。まさか1年もしない内に実現させるとは。何者なんだこの男は。そのときぼくはこの自分と1つ違いの男に驚嘆の念を感じたのだった。
アクセスが良くない
さっそく行ってみよう。行きたい…のだが、何しろこの「双子のライオン堂書店」。場所がよく分からない。
最寄り駅は都営新宿線の白山駅とあるが、まずその駅がどこか分からない。ナビタイムで見つけたものの駅から徒歩10分ほどの住宅街の中である。どう行けばいいのか見当もつかない。
そう思って二の足を踏んでいる内に他の用事が入り気づけばそれから半年ほど行かずにいたのだった。
はじめてのオファー
それがどうして行くことになったのか。店主から連絡があったのだ。
「今度、「本と本屋と読者をつなぐ」をテーマにUstream番組を配信するから、君は本屋を紹介してくれないか」
まさかのオファーである。もちろん快諾だ。本屋探訪記を始めてから早5年。ようやく人から呼ばれるほどのなにがしかを自分が持つに至ったことを喜んだ。
小さい本屋さんのやる番組だ。報酬などあるわけもないが、これで本屋さんに行く人がひとりでも増えるなら安いものである。このブログは本屋を開くまでの記録であると同時に本屋さんへの応援歌でもあるのだ。
最初のブックエンド
さて、Ustream番組の説明をしよう。タイトルは「最初のブックエンド」。メインコンテンツは「テーマブックレビュー」と言ってひとつのテーマに沿って本を紹介するものだ。ぼくはその中でBOOKSHOP LOVER@最初のブックエンド」として5分程度の時間を使い本屋紹介をしている。
こういうとしっかり構成された番組のようだがそんなことはない。本好き本屋好きが集まって3人でワイワイガヤガヤ騒いでいるような番組となっている。気軽に聴けるお喋りなのだ。
時間は不定期で月一回。土曜日の夜19時から30分の番組である。まだ見ぬ面白い本や本屋さんを知りたい方はぜひ聴いてみて欲しい。
レイアウト
ようやくだが店の紹介に入ろう。まずはレイアウトで外から見て行く。
外にはまずマガジンラックがあり『本の旅人』や『エレガール』、『R25』などフリーペーパー。中に入ると6畳ほどの広さだ。奥に広い長方形で右奥がレジで事務所にもなっている。入口すぐ脇に本棚がひとつ。左辺には壁沿いとレジに向かって合わせて本棚が7本。右辺は平台とその上のボックスが6つ。その隣、レジの前にはお喋りしたりイベントをするためのテーブルがある。
他人の本棚を覗き見る
次に本棚を見ていくのだが、そうすると初めに気づくのがここの本棚は店主ではない作家やお客によって選書された本棚であるということである。
これは驚くべきことだ。通常なら小さい本屋の店主は自分の好みと需要から商品構成=本棚をつくっていくのだが、双子のライオン堂書店はそこを他人にやってもらうのである。ある意味本屋さんの一番の売り物である本棚を他の誰かに明け渡しているということなのだ。
素っ頓狂な声を上げて転がりまわるほど驚いたのだが考えてみればこれはうまいことやっているのかもしれない。棚作りに参加したお客さんは双子のライオン堂書店に愛着を持つだろうし人の出入りも増えるだろう。イベントをすればそういったお客さんは参加するだろうし、うまくすれば店舗運営の一部に関わってくれるかもしれない。
さらに、この中には作家の本棚もある。くわしくは後で紹介するが作家が選ぶ本棚というのは本好きなら誰もが興味のあるものではないだろうか。
実はあんなに驚いたのはぼくも同じようなことを考えていたからなのだが、自分の今後のためにもよく棚を見ておく必要があるようだ。
NPO法人からの寄贈本棚
左回りに見ていく。まず、入口左脇の本棚にはNPO法人HBPに寄贈してもらった本で売上は全額寄付されるらしい。
本棚の中身は伏せさせて頂きます。
入口の辺を終えて次は店舗左辺の本棚である。なお、ここからは作家や一般人の本棚となっており、双子のライオン堂書店のメインコンテンツが本棚そのものになることを考えるとここで細かく本棚を紹介してしまうと、ただでさえアクセスの悪いこの場所である。客足が遠のいてしまうかもしれない。そのため、今回は選書人の名前だけを述べることにして、内容については伏せることにする。知る人ぞ知る渋い作家陣が選書しているのでぜひ直接行ってみて欲しい。店主は気さくな人柄で本棚について聞けば面白エピソードを教えてくれるかもしれない。
作家の本棚、貸し棚
さて、左辺の本棚である。ここには7本の本棚があるが一本目は文芸同人誌と秋沢淳子さんの本棚である。まさかのTBSアナウンサーの本棚。店主と知り合いなのだろうか。
その下には「オーナーズシェルフ」といって貸し本棚のコーナーがあり、プロ作家志望の会社員の本棚となっている。
2本目は海猫沢めろんによる「作家になるための本棚」だ。その下はオーナーズシェルフとして40代経営者の本棚。
3本目がOCP研究会による「キャリアを考える人へ」の本棚とゲンロンの本棚。
4本目。辻原登の本棚と東海大学文学部文芸創作学科による「大学生が読む50冊」。
5本目は同じく「大学生が読む50冊」が下段で上段に山城むつみの本棚。
6本目が本の本と名著コーナー。毎週店長が自由に変えているらしい。ここだけ店主の個性が発揮されているということだ。
最後7本目は震災・東北コーナーで荒蝦夷の本だ。
本棚を介したコミュニケーション
作家や作家志望、経営者にNPO団体。特定出版社の棚からちょっとだけの店主の棚。まるで共同図書館の様な赴きである。しかも、並べられている本が棚作者の個性に満ちており既存の新刊書店にはない面白さがある。特に面白いのが現役作家の海猫沢めろんによる「作家になるための本棚」である。下手な文芸講座を受けるよりここにある本を読んだ方がいいのではないか。なにせ現役作家による選書なのだ。説得力が違うだろう。
もちろんお客さんによる本棚も面白い。ここは貸し棚となっており、つまりはお客さんの古本なのだが、並んでいる本でなんとなく棚作者の好みや人柄がうかがい知れるような気がするのだ。本棚を介したコミュニケーションである。そうだ。コミュニケーションなのだ。本一冊では伝わらないが何冊何十冊もの本棚を通してこそ伝わるものが確実にあるのだ。白山駅から10分も歩いてきた甲斐があろうというものである。
文化系トークラジオLIFEでつながった縁
店舗右辺には平台がありそこにあるのは椅子と箱と平台だ。平台は文化系トークラジオLifeのコーナーとなっている。聞いてみると最初のブックエンドをやることになったキッカケもこのLIFEにあるらしい。LIFE視聴者によるオフ会で「「本」とか「本屋」をテーマにLIFEみたいなラジオをやってみたい」といって盛り上がったことがはじまりらしい。そこに本屋に詳しくて気軽に呼べるということでぼくが選ばれたということらしいのだ。
うん、LIFE様様である。これはもうこの平台にある本は一冊残らず買い占めてLIFEへの恩を体を貼って返すべきではないのか。いや返すべきだ(反語)。
…すいません言い過ぎです調子に乗りました。そんなお金はないので最初のブックエンドを頑張ります。ええ頑張りますとも。
本棚をキーワードにした新しい切り口の本屋さん
双子のライオン堂書店の視点は今までにないものだ。往来堂書店の初代店主が使った「文脈棚」という言葉。本棚を有機的な関連を持って作るというものでお客さんは気付かないうちにその関連性に乗せられて買ってしまう。本好きなら見れば見るほどその流れるような校正の本棚に夢中になること間違いない。
そんな本棚なのだが、往来堂書店以外の本屋さんもちゃんとした本屋さんなら書店員は需要を読みながら自分の好みを隠し味につけ足して本棚を魅力的に見せるために日々努力しているだろう。「文脈棚」という言葉はそれを分かりやすく表現したのであり実は書店のプロからしたら当たり前のことなのかもしれない。だが、そんな書店員の努力を本好きはちゃんと汲めているだろうか。
もちろんお客がそんなことを分かる必要はない。しかし、「本棚」という視点で本屋さんを見れば本屋さんをもっと深く楽しむことができるのではないだろうか。
双子のライオン堂書店は店主が棚作りをしないことによって、あえて「本棚づくり」という楽しく魅力的な作業をオープンにしているのだ。
本棚を切り口に本好きとコミュニケーションするための場。それが双子のライオン堂書店なのである。今はまだ小さいがこれから本棚を盛り上げたいぼくからすれば期待の新星だ。微力ではあるが最初のブックエンドを通して少しでも貢献していければと思う。