今回で記念すべき第50店を迎える本屋探訪記は渋谷のアートや写真に強い古本屋「Flying books」だ。
ツイッターつながりで知る
原宿に出るということで『昼飯どこで食べよう』とツイートしたらリプライしてくれた方がいた。そのときにオススメ昼飯の場所と一緒に教えて下さったのが、「Flying books」だ。
この「Flying books」。雑誌で本屋特集が組まれれば、結構な確率で紹介されるところで名前だけは前から知っていた。しかし、存在を知ったのが大阪に行ってからということもありなかなか行く機会もなく。何ヶ月も絶ってしまっていた。
それがフォロワーさんにオススメされるとすぐ行きたくなるというのも面白いものだ。
店まで
さて、渋谷駅のハチ公口をを出て左に曲がり、ガード下をくぐる。右手に飲み屋街が見えてくるので、そこに入っていくと『渋谷古書センター』という建物が見えてくる。ここの二階に入っているのが、「Flying books」だ(以下は2012年3月30日でのものとなる)。
まとめ
まずは、時間のない方のために短くまとめを。
- 品揃え:文庫と新書がほぼなく大判本・雑誌・単行本がほとんで。ジャンルはデザイン系が中心だが文学もそれなり。さらに言えば社会・文化とといったジャンルで括れる本もたくさんある。僕が最も推したいのはzineやリトルプレス、インディーのCDの棚である。何より小林大吾がここにはある! 一度は行くべしである!
- 雰囲気:オシャレなブックカフェとも言える。ただし、本が中心のである。カフェはついでのようなもの。お気に入りのあの古本屋でお茶が飲めたら…レジカウンター沿いの席だがそれができるのがこの店なのだ。
Tel:03-3461-1254
Fax:03-3463-8152
E-mail info[a]flying-books.com ([a]を@に差換えて送信してください。)
[営業時間]
1F AM 11:00〜PM 8:00
2F AM 12:00〜PM 8:00
URL:http://www.flying-books.com
Twitter:https://twitter.com/flying_books
Facebook:https://www.facebook.com/flyingbookstokyo
店の雰囲気とレイアウト
渋谷古書センターの階段を上ると、すぐガラス張りのバーのような空間がある。ドアも何もないがこげ茶のフローリングが敷いてある場所が店舗だ。
入ってみるとジャズが丁度良いくらいの音量で流れており、この時点でジャズ好きの僕は思わずリラックスした気分になってしまう。
正面左手にあるカウンターはレジも兼ねているが本当にカウンターで椅子が少ないながらも並べてありドリンクが注文できるようになっている。店主のおねえさんがカウンター前で作業中だ。
店のレイアウトはというと右手に広い長方形の店舗のやや右手の中央に本棚が2列。
左辺のカウンターがある場所以外はガラス張りの通路側も含めて壁沿いの本棚だ。しかし、例外がある。カウンターの両隣がガラスケースとなっていてここには貴重書が展示されているのだ。そうFlying Booksは雰囲気だけのお店ではない。しっかりした古書店なのだ。
品揃え
それでは手前から順番に本棚を見ていこう。まずは、入ってすぐ目に入ってくる中央の棚を左から右に見ていき、その裏側も…というように見ていくことにする。
入口すぐ前の本棚(店舗中央の手前の棚)
入口側(手前側)は音楽関連の本と古雑誌が多い。ジャンルは主にジャズとクラシック。他、膝くらいの高さに平積み台があって、『アンアン』とか『ノンノ』などの古雑誌が置いてあった。
以下に気になったものを記す。
- 雑誌:『スペクテイター』、『エスクワイヤ』、『スタジオボイス』、『ジャズ批評』40冊くらい、1977年前後の『宝島』が20冊くらい 、『植草甚一スクラップブック』が10冊くらい、『スイングジャーナル』が20冊くらい
- 大判本・単行本:『ビートルズ詩集 世界のはてまでも』、『ファッションと風俗の70年』、『メッセージフロムチェコアートビートルズ大百科』、『ジャズレコード全歴史』、 『モーツァルトのい る街』などモーツァルト系が20冊くらい、ワーグナー、バーンスタイン、カラヤン、武満徹、グレングールドに関する本
さて、この本の裏側はというとエロチシズム、建築、デザイン、アートが多く、その他には海外の絵本が少々だ。平積みには季刊デザインやエバーグリーンなどの古雑誌。
- エロチシズム:本の友社の『エロティックアートギャラリー』、『初代彫一 刺青』、『エロスの周辺』
- 建築:『建築思潮』、『なつかしい未来の世界』、安藤忠雄の本
- デザイン:『永井一正の世界』、『田中一光のポスター』、『スイスグラフィックデザイン』、『日本のパッケージデザインシリーズ』、『奇跡のデザイン』、『現代デザインの水脈』
- アート:『シンボルの原典』、『シルクスクリーンハンドブック』、『アールヌーボーの絵はがき』 絵本:飛行機千一夜』
総じて一本目の棚は『耳と目で楽しむ棚』と言えるだろう。
店舗中央の奥の棚
一本目の棚を見終わり、振り返ると二本目の棚である。一本目とは様子が違って、新刊書店で見かけるような雑誌用の棚が半分を占めている。面が見せられるようになっているあの棚だ。
ここには、海外の古雑誌がメインで置かれているのだが、正直、海外の雑誌についてはほとんど知らない。
『ニュートンズイラストレイテッド』、『セブンティーン』といった名前があるのだが、どういった種類の雑誌なのか見当もつかない。勉強不足が身に沁みる。しかも、残り半分はどうなっているかといえば雑誌用の面陳棚ではなく普通の棚ではあるが洋書メインだったりするのだ。平積みはもちろん洋雑誌。もう何が何やらさっぱりなのである。
そうやって頭の上に?マークをたくさん浮かばせながら棚を眺めているとようやく馴染み深い日本語の書名があった。ここはカメラの棚でもあったのだ。
『篠山紀信と28人のおんなたち』など篠山紀信の本や『花人生』、『灰色の街』、『劇写 女優たち』などのアラーキーの本。木村伊兵衛の本や雑誌『アサヒカメラ』があり、平積みの余った部分には服飾デザインの本が置いてあった。『百貨店進化論』や『世界の服飾デザイナー』、『ブランドの世紀』などがそれだ。ふーっと一息ついて裏側に回ると、店舗の奥の壁と今見ている二本目の棚に挟まれる格好となる。
ここには何があるかというと『文学』である。
書名で言うと、『妖精物語』、『グリム兄弟』、『アンデルセン』、『アニルの亡霊』、『サンデグジュペリの生涯』、『ジャンコクトー伝』(全8冊48000円)、『イシス幻想』、『ヘンリ・ミラー全集』、『サイバネティックフィクション』など。
雑誌もいくつかあり『本とコンピューター』、『ユリイカ』が3段分、『ウェイブ』が10冊くらい、『エナジー』、『対話』、『カイエ』、『本の手帖』、『現代詩手帖』、『現代のエスプリ』、『創造の世界』など。 著者名で言うとド、ストエフスキー、バタイユ、シェイクスピア、ヘミングウェイ、ジョイス、カポーティーなどである。
イギリス文学、アメリカ文学が多かったと思うが、海外文学を幅広くそろえていたように思う。
ちなみに、ここの平積み台は平積みではなく背を向けて並べられており棚と同じく『文学』関係の本で三分の一が洋雑誌。『ライフ』、『ルック』などが積まれている。表の洋雑誌が溢れたのだろうか。文学棚に洋雑誌というのも不思議な組み合わせである。
入口横の壁棚
壁から独立している本棚は見終わったので、次は壁棚である。
まずは、入り口横のガラスに面している棚から始めよう。ここは詩とシュールレアリズム。そして、zine、リトルマガジンなどインディー系の棚である。個人的にはいちばん好物な棚だ。
シュールレアリズム系は、コクトーや『シュルレアリスム読本』などアンドレ・プルトンの本。ダリ、ランボー、ポワロー、『二グロと河』などである。
zine、リトルマガジンなどインディー系の本『0円ハウス』や『スペクテイター』、『アメリカンブックジャム』、『黒猫ナイト』。
詩は島耕一、金井美恵子、谷川俊太郎、長岡三夫、宮沢賢治などの詩集で、どれも単行本なのが秀逸である。
しかし、ここの棚で僕が声を大にして言いたいのは小林大吾のCDがあるということなのである!
zineやリトルプレスなどと混ざってCDが置かれておりライトループス、小林大悟、SUIKA、アナログの降神などだが、小林大吾という詩人のCD『オーディオ・ビジュアル』がどどーんとちょうど目の高さの位置にポップ付で紹介されているのである。
と言ってもこの小林大吾。実はこの店で初めて知った人だったりする。
ここまで大仰に言っておいてなんだがこの「Flying books」でメモを取っているときに流れたのが最初なのである。 初めのうちは「なんかボソボソ言っているなー。ヒップホップは苦手なんだよなー」くらいの印象だったのだが、2曲目3曲目と聞いているうちに「あれっ。この曲。もしかしたら好きかも」となり。4曲目5曲目と聴いて「さあ買おう。やれ買おう。」というすさまじい手のひら返しをしてしまったのである。
手のひら返し。朝令暮改…それは、とにかく、初めに「良いな」と思ったのはこの曲。「青ナイルのほとりで」。「CIAとPTAとBGMが…」というフレーズに思わず吹いたのである 笑
カウンター真正面奥の壁棚とカウンター左(入り口から見て一番奥)の壁棚
いけない。熱くなりすぎた。ここらで、棚紹介に戻ろう。次に紹介する棚は、壁沿いにそのまま進んだ『カウンター真正面奥の壁棚からカウンター左(入り口から見て一番奥)の壁棚』だ。面陳が多めのこの棚は、今までで一番長い棚となっている。何しろ絶対量が多いので、並べられた本のジャンルも多岐に渡る。
右から順に、神話と古代文化、日本思想、民俗学、海外文化、右翼左翼系の本、海外思想、デザイン、サブカル・アングラ系、山・川・アウトドア、メディア、宗教、オカルト、ビートニクなど多種多様なジャンルが境目は曖昧でありながらも流れるように棚を構成している。
古本なのにジャンル分けが緩やかにでも出来ているのが凄い!
以下、いちいち書くと長くなるので、それぞれのジャンルで気になった書名を箇条書きで挙げていくことにする(ここは長くなるので、流し読みしたほうが良いかと思います。もしくは、Ctrl+Fで検索すると目当ての本があるかもです)。
- 日本文化:『古地図への旅』、『国絵図の世界』
- 民俗学:『説話集の世界』、『近代庶民生活誌』、『日本の民俗学』、『エミシ研究』、『先史古代の沖縄』、『山の精神史』、『妖怪学入門』、『アイヌ サンカとマタギ』、ほか南方熊楠や 柳田国男の本など
- 海外文化:『銀河の道 虹の架け橋』、『オセアニア神話』、『中国の民俗学』、『マハトマ・ガンジー』、『インド美術史』、『チベットの冒険』、『ネパール全史』、『ギリシア文明』、『ヨーロッパ覇権以前』、『古代エジプトの女性たち』、『ルネサンス百科事典』、『薔薇のイコノロジー』、『塩の世界史』、『美しきライフの伝説』、『アメリカの大衆文学』、『ニューズウィークの世界』、『世界の祭りと踊り』、『中東の世界』
- 右翼左翼系の本:『現代攘夷の思想』、『新右翼』、『ゲバラ革命と仏レジスタンスの真実』、『キューバ革命』
- 思想・社会学・心理学:『生体廃墟論』、『現代思想』が200冊くらい、『イマーゴ』が30冊、『エピステーメー』が10冊、『倒錯とユートピア』、『シニフィアンのかたち』、アンソニーギテンズ『社会学』、ロランバルト、吉本隆明、中沢新一、中村雄二郎、ノイマン
- デザイン・アート:『パサージュ論 パリの原風景』、『シャボン玉の図像学』、『モダンデザイン全史』、『オークションの社会史』
- フェミニズム:『脱男性の時代』、『ホモセクシャルの世界史』、『強姦の歴史』、『イヴの卵』、『第三の性』、『ボディエキゾチカ』
- 山・アウトドア:『信州百名山 探検部の誕生』、『希望のアルピニズム』、『山のパンセ』、『登山の基礎知識』、『森の記憶』、『森を歩く』、『アジア横断』、『何でも見てやろう』、『沈没日記』、『トランスヒマラヤ』、『アルプス大縦走』
- サブカル・アングラ系:『ヴァギナの文化史』、『羞恥の歴史』、『西洋拷問刑罰史』、『死の文化史』、『ゾンビ伝説』、『トイレの本』、『ザ・殺人術』、『殺したい奴ら』、『あらゆる犯罪は革命的である』、『日本猟奇史』、『ヤクザの世界』、『ザ・ギャンブラー』、『やくざと日本人』、『海賊列伝』、『昭和電車少年』、『超ロングセラー大図鑑』、『サブカルチャー社会学』、横尾忠則、寺山修司、土方巽、第三書館の本が20冊くらい
- メディア:『メディア人間』
- 宗教:『真言宗』、『般若心経のすべて』、『コーラン』、『キリスト教を知る事典』、『老いと死のフォークロア』、『宗教学入門』、『禅の思想』、『ヨガと神道』
- オカルト:『シャンバラ』、『地球空洞説』、『魔女の聖典』、『カリオストロ伯爵』、雑誌『月光』
- ビートニク:『ポッピズム』、『地下のアメリカ』、ケルアック、バロウズ『夢の書』、ブコウスキー、ギンズバーグ、『ブロードウェイの出来事』
カウンター両横にガラスケース
やっと長いのが終わったので一息つきつつ最後にカウンター両横にあるガラスケースを見ることにする。大事そうにしまわれている本はどれも何万円もするものばかりだ。
カウンター奥の方は、背の丈以上もあるケースで、『朱もどろの華』、『対立と調和』、『トランスアジア』、森山大道『ハワイ』など全部で100冊くらいが展示されており手前は腰くらいの高さで『センチメンタルな旅』や『デュシャンの1991アントワープエキシビション』、『ブラックスパロープレスの年賀詩集』などだ。
特に手前の方はマニアックな品揃えでブラック・スパロー・プレスといえば最近、ビートニクについて少しネットで調べていった中で知ったのだけれどブコウスキー(正確にはビートニクの作家ではない)の本を出版していた会社である。そんな会社の年賀詩集。ファンにはたまらない品であろう。
音楽する古本屋「Flying Books」
これで本文は終わる。「Flying books」の棚は全て見終わった。しかし、話はこれで終わらない。
先に小林大吾の『オーディオ・ビジュアル』について書いたが、一瞬で好きになったため、帰りに『取扱説明書』というユーモアが切れまくった冊子がついた特装版のCDを買った時のことである。
連れが写真集を買うかどうか迷っているのを見ていたのだろう。店主のおねえさんが『THE PHOTO/BOKS HUB,TOKYO』のことを教えてくれたのだ。これは僥倖と写真に興味が出てきた僕ら二人は翌日にのそのそと訪問することになるのである。