書評:一古書肆の思い出1

一古書肆の思い出 (1) (平凡社ライブラリー (244))★★★☆☆

本書は、和書の稀覯本を専門に扱う店舗なしの古本屋「弘文荘」を営んでいた故反町茂雄さんの自伝本全5巻の1巻目で、著者(反町茂雄さん本人)の修業時代が記されている。古書業界の歴史を知る上で非常に興味深い一冊。何しろ戦前の古書店の様子が描かれているのだ。

幼い頃より芽生えた読書熱により本にのめり込んだ著者は、読書のお陰もあって旧帝国大学(現 東京だ学)に入る。旧帝大と言ったら昔も今も超名門。就職際はよりどりみどりかと思いきや、やる気のない著者は無類の本好きであることから古書店(ここは古本屋とは呼ばないだろう)を偶然勧められる。そうやって入ったのが修行時代を過ごす一誠堂だ。

著者は丁稚として住み込みで働きながら古書の奥深き世界にどっぷり浸かり知識を深めていく。朝8時頃から夜11時か12時まで働き詰めという暮らしの中で著者を支えたのは生まれながらの丈夫な体と長い読書生活で培った百科事典的知識、そして謙虚な姿勢だった。

働き始めた当初、著者は不景気の中他の就職口もなくやりたいことはあるが足りない能力ばかりという状況で「何でも覚えよう。誰からでも教えてもらおう」と言葉遣いと態度を一新する。誰にでも丁寧に接し、仕事は何でも引き受ける。一人前の出版人(当時のやりたいこと)になるために自分を最適化したのだ。

始めはたどたどしかった仕事にも徐々に慣れてくる。すると読書生活で培った百科事典的知識が活きてくる。周囲には店主の他は先輩とはいえ年下で著者が旧帝大出ということから一目置いていたようで、誰より働いた著者はやがて丁稚の頭のような立場となる。

そこから著者の提案でそれまでの店売り中心の業態から外注中心の業態にシフトするとこれが大当たり。積極的に古書市場にも参加し、著者につく客もできてきた。30歳になっていた著者は両親の勧めもあって居心地の良い一誠堂を退職、独立することになる。

そこで、開業したのが無店舗・目録販売のみの「弘文荘」だ。

今でこそインターネットがあるので無店舗は可能だが、通信手段が乏しい中での無店舗は相当厳しいのだと僕なんかは予想する。しかし、著者は、修行時代に培った人脈に助けられることでやっていけた。

独立開業当時から買取・販売の大きな4本柱を持っていたことは著者にとって幸運だったと言えるだろう。それも著者の勤勉な勤務があってこそのものだと思うが。ちなみに4本柱とは中山正善、安田善次郎、池田亀鑑、上野精一のこと。

天理教の管長(落ちに真柱)や当時第一の古典籍コレクターなど相当に優秀な顧客であったようだ。そうやって顧客に助けられながらやっていった弘文荘であるが、本書ではここまでの記録となっている。

第二巻は昭和二十年までの弘文荘隆盛の記録、第三巻は戦後の厳しい時代 第四巻は、厳しい時代から安定するまで、第五巻は順調な経営と後輩の育成。

以上が本書の概要であるが、上述で書ききれなかったものに、古書市場の様子や古書の情報、華族から買取など気になるネタがたくさんある。今回はこれで終わるが、本書は日本の近代から現代に至る古書業界の様子を知る上で必読の一冊だ。

長いので読むのが大変だが、第二巻以降も読んでみたいところである。

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